五蘊を観じて我見を断ず（第一部）（第二版）

第二節　意識の我見と末那識の我見

一、末那識の我見

末那識があるがゆえに我見が生じ、末那識が我見を持つがゆえに、五蘊衆生は無始劫より賊を父と見做し、妄りに生死流転の苦を受けてきた。賊を父と見做すのは末那識の認識である。いずれが賊か。六識の機能作用が賊である。いずれが父か。我及び我所有が父である。六識の生滅無常なる変異性を、末那識は明らかにせず、六識の機能作用を自らの機能作用と見做し、執着を捨てず貪愛し続ける。いかんすべきか。まず身中に不生不滅の真心あることを承認し、次に六識五蘊の苦空無常無我性、生滅変異性、不可得性を観じ、さらに六根六塵の生滅無常無我性を観じてこそ、賊人を滅し、心中に賊無くして、さらに賊人への執着貪愛を断じれば解脱を得る。

末那識の我見は極めて広汎かつ微細であり、強い執着性を帯び、一切時に亘って恒常に一切法を我・我所有と執する。末那識は眼識の色を見る機能を我所有と執し「我が色を見た」「我は色を見ることができる」と認識する。耳識の声を聞く機能を我所有と執し「我が声を聞いた」「我は声を聞くことができる」と認識する。鼻識の香を嗅ぐ機能を我所有と執し「我が香を嗅いだ」「我は香を嗅ぐことができる」と認識する。舌識の味を嘗める機能を我所有と執し「我が味を嘗めた」「我は味を嘗めることができる」と認識する。身識の触を覚える機能を我所有と執し「我が快適さと痛みを感じた」「我は快適さと痛みを感じることができる」と認識する。意識の覚知する機能を我所有と執し「我が多くの法を了知した」「我は思考し、多くの法を感知できる」と認識する。

一方では第八識の機能作用を我と執し、他方では六識の機能作用を我と執し「我が一切法を了知した」「我は一切法を弁別できる」「一切法は我の所有である」と認識する。例えば「我に神通あり」「我は分身できる」「我は一切を創造できる」など、これら極めて多くの我は全て末那識の我見であり、末那識は普遍的に一切法を我・我所有と計度執着する。末那識は無始劫より五蘊十八界を誤って我と認め、また能く主宰する末那識自身を真実の我と見做し執着を生じる。末那識の我見は極めて断じ難く、反復して深く細かに五蘊十八界の真実の相貌を観行し、識心の真実相状を観行し、末那識が実相を観じ真理を認識するに至り、内心深く真に五蘊十八界が真実の我でないことを証得してこそ我見を断ずる。我見は断じたといえども、末那識の自我への執着性は依然存在し、これが三果を得て後漸く断除され、断尽して四果となる。

五蘊を我とすることは、主に末那識の邪見による。末那識は色身を我とし、我末那識の所有に帰す。六識の機能作用を我とし、我末那識の所有に帰す。六塵を我とし、我末那識の所有に帰す。五根を我とし、我末那識の所有に帰す。末那識の機能作用を我とする。末那識こそ一切法が全て我の所有であると言う資格を最も有する。一切法は実際に末那識に奉仕するものであり、六識と如来蔵を含むからである。故に末那識のこの我はかくも自信に満ち、かくも強情で、かくも固執的で、かくも盲目で、かくも不可逆的であるがゆえ、初めて我見を断ずることがかくも困難なのである。

二、意識の我見

自らを感じる心は意識心である。意識には見分と自証分があり、一切法を証知できる。意識にはまた証自証分があり、自らを証知し反観する。故に意識に自我感覚が生じ、五蘊と七識の心行をも感じる。意識は一切法を感じられるものが我であり、一切法が我の所有であると認識し、我は恒常で断滅しないと考える。これが意識心の我見である。

意識の我見と末那識の我見を問わず、我見を断じない限り、全ての知見は誤りであり邪見である。五蘊十八界法、色身及び色身の覚受、識心及び識心の覚受、これらの法は因縁所生であるが故に全て虚妄法である。これらの因縁に順じて推論すれば、一方向では一切法空無・非我という結論を得、他の方向では一切法が如来蔵より出生するとの結論を得る。両者とも我見を断ずるものであり、後者は大乗の明心でもある。

末那識は自らの時処にわたる主宰性と択択性を我と執し、これも生滅幻化して実体なきことを知らない。意識は末那識の時処にわたる主宰性・択択性・恒審思量性を我と真実と執するか。意識がこれらの機能作用が末那識のものと知らず、意識自身の機能作用と見做せば、これは錯執であり意識も無智であることを示す。意識が自ら六塵を了別し分別する機能作用を真実の我と認識するのは意識の証自証分であり、これも錯認である。この錯認により末那識もまた錯認するに至る。末那識のこの錯認を正すため、まず意識に意識の機能作用が真実でなく我でないことを反省させ、末那識を薫習する。末那識が一旦薫習を受け、意識の機能作用を真実・我と認めなくなれば、我見を断ずる。

三、分別我見は意識の我見

分別我見は断続我見とも呼ばれ、意識心の我見であり、後天的に生じるもので先天の末那識の影響も受ける。倶生我見は末那識の我見である。末那識は無始劫より存在し滅したことがなく、無始劫より五蘊を自己と認めてきたが故に頑固で知見を断じ難い。意識心の我見は、意識が五蘊十八界を我とし真実と認識し、意識自身を真実で永遠に滅せず来世へ赴くことができると持つ見解である。これらは五蘊十八界の虚妄、特に意識心の虚妄を観行してこそ断除できる。

四、倶生我見は即ち第七識の我見

第七識自体に分別性あり、その見も分別見である。倶生とは第七識が無始劫より存在不滅であることを指す。故に第七識の我見分別見は生来の先天的見解であり、倶生我見と呼ばれる。第七識末那識は六根の一、十八界の一である。我見を断ずる際、五蘊十八界の我を断除するならば、当然第七識末那識の我見も断除し、第七識末那識も我でないことを証得すべきである。これが真に完全な我見断除であり、さもなくば部分的な断我見に留まり、初果の者とは言えない。第七識末那識の我執、五蘊十八界への執着は四果時に至って断除断尽する。即ち末那識が五蘊十八界の我への執着を断尽すれば、四果慧解脱の阿羅漢となり、三界を出で生死の束縛を解脱する力を持つ。

五、我見には必ず我執あり

全ての我見には我執が内在する。内心に糾え解けず、捨て難く、看破できないものは全て我執である。我見とは、六七識が色を見、声を聞き、香を嗅ぎ、味を嘗める我があると認識し、或いはこれらの機能作用を我の所有と見做すこと。思考分析判断する我あり、感受する我あり、行住坐臥する我あり、或いはこれらの機能作用を我の所有と見做すこと。同時に色身を我と見做し、或いは色身の機能作用を我の所有と見做すこと。これらの邪見は全て生死の根であり、断除すべきである。その中で根本的な我見は第七識末那識の我見であり、意識はこれに依って我見を生ずる。色を見、声を聞き、香を嗅ぎ、味を嘗める我は六識である。末那識が六識の機能作用を我・我所有と見做すこの我見を断除すべきである。