「大乗広百論釈論」巻二

原文：また、諸の我見は略して二種あり。一には俱生、二には分別なり。俱生我見は、無始より来たる内因の力によりて、恒に身と俱にあり。邪教及び邪分別を待たずして、任運にして起こる。故に俱生と名づく。此れまた二種あり。一には常に相続し、第七識に在りて第八識を縁とし、自心の相を起こし、即ち我と執する。これを我見と名づく。

釈：我見には大略二種あり、一つは俱生我見、もう一つは分別我見である。俱生我見は、無始劫以来、意根自身の無明の力により、生生世世にわたって五蘊身に随逐し捨離せず、意識の邪教を待たず、また意識の邪分別に染まることもなく、意根自ら縁に随って我見を生じ、五蘊身を我及び我所と認取する。故に俱生我見と呼ぶ。これは五蘊身が生まれながらにして意根に具わる我見であり、母胎の中に在っても我見を有し、胚胎を我及び我所と見做す。

俱生我見は更に二種に分けられる。一つは生生世世相続して断絶なく、未来にも断たれない。真に我見を断じた後に初めて俱生我見がなくなる。この我見は何によって存在するか。意根の無始劫以来の無明により、第八識が出生し執持する一切の法を、悉く我及び我の所有と見做し、一切の法に対する執着を生じる。これを遍計所執識と称し、法界の実相を知らず、一切の法が第八識に由来し、第八識の所有であることを知らない。故にこれを顛倒見、錯執と呼ぶ。

意根の我見は総じて法我見と呼ばれ、一切の法を自己のものと見做す。その中で意根は第八識が出生し執持する五蘊をも我及び我の所有と見做す。これが顛倒の邪見・錯見であり、五蘊我見と呼ばれる。我見有るが故に我執が生ずる。この我見は苦集滅道の四聖諦を修学することによってのみ断除できる。断除した後、意根の五蘊身への執着が次第に軽減され消滅する。我執が断尽すれば三界を出て解脱を得る。

原文：二には間断有り。第六識に在りて五取蘊を縁とし、或いは総じて或いは別に自心の相を起こし、即ち我と執する。これを我見と名づく。此の如き二種の俱生我見は微細にして断じ難し。数数に勝れたる無我観を修習して、方能く除滅す。

釈：俱生我見の第二種は間断有する意識の我見を指す。意識が五取蘊を縁とする時、或いは五取蘊の総体相を我及び我所と見做し、或いは五取蘊の個別相を我及び我所と見做す。かくして五取蘊を我及び我所と執取する。これが意識の我見である。意識我見の生起には前提が必要で、意識が五蘊の相貌を理解し、五蘊の相貌を識別でき、五蘊の機能と内包を知ることで初めて我見が生じる。さもなければ我見は存在しない。

例えば意識が眼識の色を見る機能を我及び我所と見做す場合、まず意識は此時が色を見る時であることを知り、此時が我が色を見る時であることを認識し、心中に我の概念がなければならない。もし我の概念が熏習されていなければ我見はない。例えば赤ん坊が生まれたばかりの時、自分の親を分別する力がなく、親を認識しないため、誰が抱いても構わない。成長するに従い親を認識するようになると、これが私の親であると知り、親に貪執し、他人に抱かれることを好まなくなる。

赤ん坊が生まれたばかりの時、食物に対する分別力がなく、自我の認識も曖昧なため、食物を我及び我のものと見做さず、貪執することもない。親が食物を他の子に与えても、赤ん坊は異議を唱えず、泣き叫んだり怒ったりしない。更に成長すると、我と他人の区別がつき、衣食玩具等について認識が生じると、我見及び我所見が生まれ、自己の所有物に貪執し、例えば触れられることを許さなくなる。故に意識の我見は生来のものではなく、後天的な学習と認知を通じて生じ、意根の熏染に依って初めて我見及び我所見が形成される。

意根と意識の此の二種の俱生我見は、行相が極めて微細であるため断じ難い。常に絶え間なく勝れた無我観行を修習し、長期にわたる熏習によって初めて滅除できる。故に意根の俱生我見を断除することは容易ではない。俱生我見が断たれなければ、意根の俱生我執も断除できない。我執は我見に依って存在するため、我見有る処に我執有る。

原文：分別我見は現在世の外縁の力によりて、身と俱ならず。邪教及び邪分別を待ちて、然る後に方に起こる。故に分別と名づく。此れまた二種あり。一には邪教の説く所の蘊相を縁とし、自心の相を起こし、分別して我と為す。これを我見と名づく。二には邪教の説く所の我相を縁とし、自心の相を起こし、分別して我と為す。これを我見と名づく。此の如き二種の分別我見。

釈：我見の第二種は分別我見であり、これも意識の我見である。この我見は後天的な生活環境の熏染によって生じるもので、五蘊身と共に生まれるものではなく、五蘊身に伴って存在するものではない。他人の誤った教導に従う必要があり、誤った分別が生じて初めて意識の我見が生じる。その後、意識の我見が更に意根を熏染し、意根の我見と我執を増長させる。

分別我見も二種に分かれる。一つは他人の五蘊に対する不正確な教導を縁とし、これが色蘊、これが受蘊・想蘊・行蘊・識蘊であると説き、これが私の色身相、これが私の受覚相、これが私の認知相、これが私の思想観念、これが私の決定、これが私の為したことであるとする。かくしてこれらの機能作用を悉く私の色受想行識蘊と見做す。これを分別我見と呼ぶ。

第二の分別我見は、他人が我相について誤って教えることを縁とする。これが私である、私は此の様な者であると説くことにより、此等の一切の相を悉く私と見做し、心中に我相が生じ、我見が生まれる。これが説かれる二種の分別我見の内実である。