原文:聞く如く。一時、仏は迦維羅衛国に在り。爾の時、浄飯王来たりて仏の所に詣で、頭面礼足し、合掌恭敬して仏に白して言く、請い求めんと欲する所有り、以て自らを済度せんと。唯願わくは世尊、哀みて我が志を酬いたまえ。仏言く、得べしの願い、王の求むるに随う。
釈:我(阿難)自ら仏のこのように説きたまうを聞けり。或る時、仏は迦維羅衛国におられ、浄飯王は仏の住まいを訪れ、頭面を地に付して仏の両足を頂礼し、合掌恭敬して仏に申し上げた:私は法を請いたい、自分自身を救済するためである。ただ世尊が慈悲をもって私の願いを満たしてくださることを願う。仏は言われた:私はあなたの願いを満たすことができる、大王の願い求めに随順しよう。
原文:王、仏に白して言く、世尊は已に比丘・比丘尼・沙弥・沙弥尼の為に、戒の軽重を制したまえり。唯願わくは如来、亦た我等優婆塞の為に、五戒の悔い得るものと悔い得ざる者とを分別したまえ。戒相を識らしめ、疑惑無からしめんことを。仏言く、善き哉、善き哉、憍曇よ。我が本心に念う、久しく優婆塞と五戒を分別せんと欲す。若し善男子有りて受持し犯さざる者は、此の因縁を以て当に仏道を成ぜん。若し犯して悔いざる有らば、常に三塗に在るが故なり。
釈:浄飯王が仏に申し上げた:世尊よ、あなたはすでに比丘・比丘尼・沙弥・沙弥尼という出家者たちのために軽戒と重戒を制定なさいました。どうか如来には、私たち在家居士のためにも、五戒のうち、どの戒を犯せば悔いが可能で、どの戒を犯せば悔いが不可能かを明らかに示してください。そうすれば私たちは戒の相(具体的な規定)を理解し、疑いを持つことがなくなります。仏は言われた:よろしい、よろしい、ゴータマ(憍曇)よ。私も本来、心の中で考えていた。ずっと以前から優婆塞のために五戒の戒相を区別して示そうと願っていたのだ。もし善男子が戒を受持して犯さないならば、この因縁によって将来必ず仏道を成就するであろう。もし犯して悔い改めない者がいるならば、常に三悪道(地獄・餓鬼・畜生)に堕ちるであろう。
原文:爾の時、仏、浄飯王の為に種種に説き已りて。王、法を聞き竟り、前に進みて仏足を礼し、仏を繞りて去れり。仏、此の因縁を以て諸の比丘に告げて言く、我今、諸の優婆塞の為に犯戒の軽重、悔い得るものと悔い得ざる者とを説かんと欲す。諸の比丘、僉しく曰く、唯然。願わくは楽みて聞かんと欲す。
釈:仏が浄飯王のために様々に説法なさった。浄飯王が法の要旨を聞き終えた後、近づいて仏足を頂礼し、仏の周りを右繞して去って行った。仏はこの因縁を諸比丘に告げて言われた:私は今、諸々の優婆塞のために、犯戒の軽重、および犯戒後に悔い改めが可能か不可能かの区別を説こうと思う。諸比丘は皆一斉に言った:はい、承知いたしました。心から喜んでお聞きしたいと存じます。
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