瑜伽師地論 第三十四巻（五十七）

原文：この智慧によって、諸行の無常を了知し、無常無辺際の勝解を発起す。かくのごとく苦などを了知し、苦無辺際の勝解を発起し、空・無我無辺際の勝解を発起し、悪行無辺際の勝解を発起し、悪趣に往く無辺際の勝解を発起し、興衰無辺際の勝解を発起し、および老病死愁悲憂苦、一切の擾悩無辺際の勝解を発起す。

釈：無辺際智があるがゆえに、諸行の無常を了知し、無常法に対する無辺際の勝解を発起す。かくのごとく苦・空・無常・無我などを了知して、苦無辺際の勝解・空・無我無辺際の勝解・悪行無辺際の勝解・悪趣往生無辺際の勝解・興衰無辺際の勝解・および老病死憂悲苦悩一切の擾悩無辺際の勝解を発起せしむ。

原文：ここに無辺際というは、生死流転を謂う。かくのごとき諸法は辺際なく、生死流転の絶えざるに至るまで、常にかの説かれたる諸法あり。ただ生死のみ余すところなく息滅すべし。この息滅すべきもの、さらに余の息滅方便なし。すなわちかかる諸有・諸趣の死生法のなかにあって、願なき行い、依る所なき行い、深く厭離する行いをもって勝解を発起し、精勤して勝解作意を修習す。

釈：無辺際とは、生死流転という諸法が際限なく、生死流転の断絶せざることを示す。上述の諸法は常住なりといえども、ただ生死のみが余すところなく止滅しうる。この止滅しうる法には、他の止滅方便存在せず。かかる三有六道の生死法において、無願行・無所依行・深厭離行をもって勝解を発起し、精進して勝解作意を修習す。