何故、衆生は神通自在できないのか

例えば天眼通では、天上天下いかなる遠方であろうとも、いかに微細な物質色法であろうとも、眼識意識の見るものを阻むことはできない。なぜそうか。一切の色法は全て如来蔵中の色法であり、如来蔵は形相なく、距離も遠近大小もない。意根は如来蔵に依って、如来蔵中の一切の色法を見ることができ、高低遠近大小広細の区別がない。意根が動かずとも如来蔵中の物質色法を見ることができ、時間や距離の概念がない。したがって眼識意識は意根に依って即時に如来蔵中の一切の色法を見ることができ、時間的隔たりや高低上下軟硬の区別がないのである。

例えば天耳通では、一瞬にして遠近一切の音声を聞くことができ、時間的遠近の隔たりも、粗い音細かい音の区別もなく、一切の音声を即時に聴取できる。なぜそうか。一切の音声は如来蔵中の音声であり、如来蔵が幻化したものだからである。意根は如来蔵に依って一切の音声を了知でき、遠近高低過去未来現在を問わない。耳識意識は意根に依って、同様に一切の音声を了別できるのである。

例えば宿命通では、自己他者の過去未来現在における全ての経験すべき人事物を、意識はことごとく了知できる。なぜそうか。これら一切の事象は如来蔵中の事象であり、如来蔵が幻化したものであり、如来蔵中のアーカイブであるからだ。意根は如来蔵に依って一切の人事物理を了知でき、意識は意根に依ってこの一切の法を了知できる。眼前に在るが如く、何らの障害もない。

例えば他心通では、衆生の心念を意識はことごとく了知できる。なぜそうか。衆生の心念は全て如来蔵中の法であり、如来蔵が幻化したものだからである。意根は如来蔵に依ってこの一切の法を了知でき、障害がない。意識は意根に依って、衆生の一切の心念を了知できる。過去久遠の時劫であろうと、未来現在の心念であろうと、何らの障害もない。

例えば神足通では、身識と意識は色身を遠方の他方世界に導き、極近き一衆生の色身の中に至ることができ、障害がない。なぜそうか。一切の処所は全て如来蔵中にあり、如来蔵は形相なく遠近広狭の区別がない。意根は如来蔵に依って即時に如来蔵中の如何なる処所にも到達できる。身識意識は意根に依って、同様に如来蔵中の如何なる処所にも至ることができ、時間的距離遠近広狭の概念なく、即時に到達するのである。

衆生は愚かにもこの理を知らず、如来蔵の広大さを知らず、己れの能力を知らず、ひたすら無用の世俗法を追い求め、貪瞋痴の業行を造り、自らの神通力を阻害している。実に損得勘定に合わぬことである。仏法を求めれば何でも得られ、如来蔵には何も欠けるものがない。福徳資糧を満たせば成仏さえ些細なことに過ぎず、何の難事があろうか。

しかしなぜ衆生はなお三大無量劫を修行して初めて成仏できるのか。ただ意根という老いぼれが、貪瞋痴が熾盛すぎ、執着が深刻すぎ、無用の世俗法に執着せぬものなく、有用の仏法には執着しないからだ。意根の執着を除去するには二大無量劫を要し、さらに意根の微細な無明を除去するにはまた一無量劫を要する。難しさはまさにここにある。

如来蔵の万宝嚢の中で、愚かな衆生はただ己れを束縛して自在を得られぬ荷物ばかり取り出し、自らを豊かにし解脱を得させる宝物を取ることを知らない。軽重を弁えず、どちらが軽くどちらが重いか分かっていない。これが無明である。考えてみよ、各人が追い求める生死を束縛し自在を得られぬ世俗法とは何か。重荷と感じないか。縄を解きたくないか。自由を得たくないか。大千世界を所有して砂の泡を棄てたくないか。