無辺称王はなぜ人間界に堕ちたのか
原文:その時、長きにわたり、このように思惟した。かの天を退け、我ひとりが主とならん、と。この念いをなすや、王と兵衆は即時に退堕し、宝荘厳城の宝篋園に至れり。時に園を守る者、この事を見て城中の人々に告げ、このように唱えし。今や天人がここに退没せり、と。
釈:無辺称王は三十三天において長い時を過ごし、このように考えた。帝釈天を追い払い、自らが天主となってこの天界を治めよう、と。この念いを起こすや、無辺称王と四種の軍勢は即座に人間界の宝荘厳城の宝篋園に堕ちた。園の守護者がこの様子を見て城中の人々に告げた。今し方天人様が天より堕ちて来られました、と。
原文:時にその国王、名を作愛という者、この話を聞き急ぎ車駕を整え園に赴く。上記の事態を見て未曾有の怪事と思い、即座に各種の香花・抹香・塗香を準備し、かの王の元に至る。右肩を袒ぎ右膝を地に付け、長跪合掌して安否を問い、申し上げた。聖天がここに来られたのは、どなたなのでしょうか。彼は答えて言う。汝はかつて転輪王・無辺称の名を聞いたことがあるか。作愛王は言う。古老の伝えに、昔無辺称という王が威徳自在に四天下を治め、四兵衆と共に虚空を昇り三十三天に至ったと承っています。汝の聞くところ、それは別人にあらず、即ち我が身なり。
釈:当時宝荘厳城の王は作愛と名乗り、この事態を聞いて直ちに車馬を整え園に急行した。前代未聞の光景を見て驚き、様々な香花・抹香・塗香を準備し無辺称王の元へ赴いた。右肩を露わにし右膝を地面に着け、恭しく合掌して尋ねた。尊い天人がここに来られたのはどなた様でしょうか。無辺称王は答える。昔の転輪王・無辺称の名を知っているか。作愛王は答えた。古老の話では、かつて無辺称王が威光と徳をもって天下を治め、四兵衆と共に天に昇られたと聞いております。無辺称王は言う。その伝えの人物は他ならぬこの私である。
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