瑜伽師地論 第十巻（十二因縁）

（三十九）現観智諦現観、現観智諦現観を具えたる者は、一切の出家果位を獲得し、一切の清浄なる功徳を引き起こし、その他の現観智慧を生じさせ、善道において清浄なる果報と業を感得せしむ。現観智諦現観を成就した有学無学の者は、永遠に虚妄なる我見に依って造作することなく、所作は全て無我なり、自ら証得した法に対し永遠に疑惑を生ぜず、永遠に雑染汚れたる所に出生せず、出生する所にも再び貪染せず。現世の生活と修行において、全ての世間事相は清浄となり、染汚不浄なく、声聞・独覚・大乗法を誹謗せず、悪業を造作せず、五逆罪と七逆罪を犯すことなく、再び八度三界に出生せず、これが初果極めて七有を尽くすという意味なり。

現観辺智諦現観、この智慧は見道後にて獲得するものなり。いずれの見道にて獲得するか。第三品見道、初禅定と智慧双運の三果・四果見道後に得る現観智なり。先の世間智に縁り、下地（欲界）と上地（色界初禅天）、及び欲界と色界初禅天の二種の安立せる真実理を観察して得る境界なり。法智と類智の世俗智に摂せられ、世間智と出世間智に通ず。四聖諦の各諦の観行において、忍可欲楽智と現観決定智が現前す。かくの如く前諦の現観に依り、上諦と下諦の観行に二種の現観智を生ず。これ即ち現観辺智諦現観なり。現観辺智諦現観を成就した三果・四果の者は、永遠に他者の詰難を恐れず。現観智深く利にして解脱道の法義に通達し、彼を難じ得る者なく、全ての難問を善巧に解答す。

究竟現観、これ四果阿羅漢の証得せる現量観行の智慧なり。四果阿羅漢及び修道所断の一切煩悩現行を断尽し、三界有を滅尽する智慧を得、後世に再び出生せざる智慧を獲得す。或いは衆生を憐れみ救済の心を発して後世に仍って世に出生すれども、一切煩悩現行なく、仍って世間永滅の智慧に依って立世す。これ即ち究竟現観なり。世間永滅の智慧を証得すること最も究竟なり、世間究竟空なる智慧を証得すること最も究竟なり、これ即ち究竟現観なり。以前の現観には未だ漏れ有りて尽きず、故に未だ究竟現観にあらず。

究竟現観を成就した大阿羅漢は、永遠に五戒を犯さず、故意の殺生・不與取・淫欲・妄語・財宝蓄積による受用を行わず。ここにいう淫欲とは如何なる種類の淫欲をも指し、軽重を問わず、世俗法の許容如何に拘わらず、道徳非道徳を論ぜず。阿羅漢果を証得すれば必ず出家僧なり、在家の者無く、何らの眷属も有せず、故に正淫の説も無し。ここにいう妄語とは如何なる妄語をも含み、世俗法における故意の虚言たる世間妄語を含む。阿羅漢は永遠に後世に起こる不可知の事を恐れず、世間の全ての苦楽を虚妄に自作・他作・自他作と計らず、非自非他の無因生と妄記せず。究竟現観を成就した大阿羅漢は世間一切の生死の大苦より解脱し、此の身は最後の身なり、再び後有を受けること無し。ただし形を留めて住世する者は除く。