『父子合集経』講話（一二二）

夢の中で声を聞くことは実在するか。

原文：仏は王に言われた「耳で声を聞き、捨てる想いを起こす。譬えば人が夢中で他人の説く義理に適わぬ文句を聞くが如し。如何に思うか。この人目覚めた後、夢中で聞いた声を憶念する時、実在するか」王曰く「否なり」

仏言われた「大王よ、この人の夢を執って実と為すは智者か」王曰く「否なり世尊。何となれば、夢中には畢竟音声無く、況んや更に義理に適わぬ文句あらんや。知るべし、この人は徒らに自らを労して、全く実無し」

釈：仏は説かれた「大王よ、衆生が善でも悪でもない両極を捨てた声を耳で聞き、これを実と執着する様は、譬えば人が夢中で意味のないまとまりのない言葉を聞き、目覚めた後も夢で聞いた言葉を追い求めるようなもの。これは実在すると考えるか」浄飯王は答えた「実在しません、世尊」

仏は続けられた「大王よ、自分の見た夢を実在と執着する者は智者と言えようか」浄飯王は答えた「智者ではありません。なぜなら夢中には本来音声が無く、ましてやまとまりのない言葉など存在しないからです。この者はただ心を駆り立て疲れさせるだけで、実体など全く無いのです」