瑜伽師地論第十巻

（九）原文：問う。何故に諸支は相望んで、因縁無きや。答える。因縁とは、自体の種子の縁によって顕れたるものなる故に。問う。若し諸支の相望むに因縁無きならば、何故に因果の体性に依って縁起を建立すと説くや。答える。増上縁に摂せられる所の、引發因・牽引因・生起因に依る故に、因と名づけて説く。 

釈：問う。何故にこれらの支分が相互に縁となる中に因縁が無いのですか。答える。因縁とは諸支分の自体の種子の縁によって顕現されたものである（この意味は甚深で、諸支分を生じ得る自体の種子は全て阿頼耶識より来たり、阿頼耶識に存在する。換言すればこれらの支分は全て阿頼耶識より生じたもので、阿頼耶識と自体種子がこれらの支分の因縁である）。問う。これらの支分が相互に縁となるに因縁が無いなら、何故に因果の体性に依拠して縁起を建立したと説くのですか（因果の体性とは前因が後果を生じ、後果が即ち縁起の法である）。答える。これらの支分は増上縁に摂受されたものであり、前支分は後支分にとって引發因・牽引因・生起因である。これらの因は因縁生の因であって、直接生じる種の因ではなく、直接生じる因は阿頼耶識あるいは自体種子識である。

原文：問う。幾つの支が引因に摂せられるか。答える。無明より受に至るまで。問う。幾つの支が生因に摂せられるか。答える。愛より有に至るまで。問う。幾つの支が生引二因果に摂せられるや。答える。現法後法において、識等より受に至るまで。生老死の位において摂せられる諸支。

釈：問う。十二支分の中で幾つの支が引因に摂受されるのですか。答える。無明縁行・行縁識・識縁名色・名色縁六入・六入縁触・触縁受、この六支は引因に摂受され、後続の支分を引生する。問う。幾つの支が生起の因に摂受されるのですか。答える。受縁愛・愛縁取・取縁有、この四支が生起の因に摂受される。問う。幾つの支が生起の因と引因の二つの因果に摂受されるのですか。答える。現前存在する後の法において、識縁名色・名色縁六入・六入縁触・触縁受、生の位と老死の位に摂受されるこれらの支分は、生起の因と引因の二つの因果に摂受される。

無明は行を引生するが、行を出生することはできない。引とは導くことであり、助縁たる増上縁である。出生は直接生じることで、無明には体も心も種子も無く、行を生じることはできず、ただ阿頼耶識が行を出生する際の引き金となる。この引き金が無ければ、阿頼耶識は行を出生できない。行は六識の引因であって、直接六識を出生する因ではない。行には自体性も種子も無いため、六識を出生できず、阿頼耶識が行を媒介として六識を出生する。六識は名色の因縁であって、直接名色を出生せず、阿頼耶識が六識の縁を媒介として名色を出生する。六識の造作は後世の名色を引生する。

名色は六入の引因であって、直接六入を出生せず、阿頼耶識が名色を媒介として六入を出生する。この中で意入は元来より存在するもので、阿頼耶識が新たに出生したものではない。六入は触の引因であり、触を引生するが、直接触を出生できない。六入には自体性が無く種子も無いため、触を出生できず、阿頼耶識が六入という引因を媒介として触を出生する。触は受の引因であり、受を引生するが、直接受を出生できない。触には自体性が無く、また識心でもないため種子が無く、阿頼耶識が触を媒介として受を出生する。