陰持入経上巻

（三）原文：痴相とは何ぞや。冥中に冥を見るが如し。もし解せざれば、これより行相処に堕するに至らしむ。行相とは何ぞや。後に復た有ることを令す、これを行相と為す。上より是に発起し、これより識処に堕するに至らしむ。識相とは何ぞや。物を識り事を識る、これを識相と為す。これより名字処に堕するに至らしむ。名字相とは何ぞや。俱に猗（よりそ）う、これを名字相と為す。これより六入処に堕するに至らしむ。 

釈：愚痴相とは如何なる相貌か。内心の頑冥により見る所全て暗黒不明なり、もし法に対し不如実解あらば、行相中に堕するなり。行相とは如何なる相貌か。後続の遵従を引き起こすを令す、これが行の相貌なり。行は即ち命令と指令の如く、主宰・主導・抉擇の義なり。前に指令ありて行処より発起し、後に指令に遵従して六識処に至らしめ、六識を生起せしめて行の指令に遵従せしむ。六識の相貌とは何ぞや。六識は物を識別し理を識別する為に存在す、これが六識の相貌なり。六識の身口意行より後世の名色処に堕する。誰が後世の名色処に堕するか。意根と阿頼耶識なり、而して後名色五陰身を出生す。名色とは如何なる相貌か。名色は一切法の依り所、名色無くんば一切法皆無し。名色有れば、六入処の発生を致すに至る。 

原文：六入相とは何ぞや。分別の根を為す、これを六入相と為す。これより思望処に堕するに至らしむ。思望相とは何ぞや。相会して更に生ず、これを思望相と為す。これより痛処に堕するに至らしむ。痛相とは何ぞや。更に覚る、これを痛相と為す。これより愛処に堕するに至らしむ。愛相とは何ぞや。発生する、これを愛相と為す。これより受処に堕するに至らしむ。受相とは何ぞや。受持する、これを受相と為す。これより有処に堕するに至らしむ。有相とは何ぞや。若干の処に堕するを令す、これを有相と為す。これより生処に堕するに至らしむ。生相とは何ぞや。已に五陰有る、これを生相と為す。これより老処に堕するに至らしむ。 

釈：六入とは如何なる相貌か。六塵を分別する為に存在する根、これが六入の相貌なり。六入より触中に堕入す。触とは如何なる相貌か。塵と接触して出生する法、これが触なり。触より受覚中に堕入す。受とは如何なる相貌か。覚を引き起こす、これが受の相貌なり。受より愛処に堕入す。愛とは如何なる相貌か。利養供奉を引き起こす、これが愛の相貌なり。愛より取処に堕入す。取とは如何なる相貌か。占有し持し保つ、これが取の相貌なり。取より三界有に堕入す。有とは如何なる相貌か。五蘊を三界中任意の処に堕するを令す、これが有の相貌なり。有より生処に堕入す。生とは如何なる相貌か。已に五陰身有る、これが生の相貌なり。生より老処に堕入す。 

原文：老相とは何ぞや。転じて熟する、これを老相と為す。これより死処に堕するに至らしむ。死相とは何ぞや。命根尽きる、これを死相と為す。これより苦処に堕するに至らしむ。苦相とは何ぞや。身急迫する、これを苦相と為す。これより不可処に堕するに至らしむ。不可相とは何ぞや。心意急迫する、これを不可相と為す。これより悒悒憂に堕するに至らしむ。悒悒相とは何ぞや。五陰を憂う、これより愁悩処に堕するに至らしむ。悲愁相とは何ぞや。口に声を出し言う、悲悩懣を致すに至らしむ。懣は即ち悩み、悩み亦た懣なり。 

釈：老とは如何なる相貌か。色身成熟する、これが老の相貌なり。老より死処に堕入す。死とは如何なる相貌か。生命終了し諸根無用、これが死の相貌なり。死より苦悩処に堕入す。苦とは如何なる相貌か。身体急迫、五陰を不可意処に堕するを令す。不可意とは如何なる相貌か。心意急迫、五陰を憂戚処に堕するを令す。憂戚とは如何なる相貌か。五陰を憂愁する、これが憂戚の相貌なり。五陰を愁悩処に堕入す。愁悩とは如何なる相貌か。口に怨嗟・嘆息・憤懣の声を発し、悲憤・懊悩・憤懣に堕入す。懣は懊悩、懊悩亦た懣なり。死により引かれる一連の苦衰相、心境低落し情緒苦悶愁苦、次第に低劣衰壞す。