阿含口解十二因縁経

（五）原文：色は身に非ず。但だ名を以て身と為す。眼耳鼻舌身意有りと雖も、亦復た身に非ず。何を以て故か。設い耳是人と為すも、当に能く一切を聴くべし。形より名字を得るを譬えば、金字の如し。譬えば金を以て物を作るに、是に因りて字を得るが如し。地水火風空、是の五事は身を作るも、亦復た身に非ず。何を以て故か。身は細滑を知るが故なり。人既に死すれば地は細滑を知らざるが故なり。地水火風空は身に非ざるを知る。身も亦空、意も亦空、俱に空にして所有無し。亦痛痒無し。何を以て故か。人既に死すれば亦復た痛痒を覚えざるが故なり。是の如くを以て空と為す。意既に身を離るれば、亦痛痒無し。但だ因縁の共に合するが故に、還って無有に帰す。 

釈：色陰は衆生の身に非ず、受想行識の四陰の名こそ衆生の身なり。眼耳鼻舌身有りと雖も、亦身に非ず。何故ならば、仮に耳根を以て人身と為すならば、当に一切の法を聴くべし。然るに実際には耳根は声一つを聴くのみ、他の法は聴き了別すること能わず。一切の法は形相より名字を得る。譬えば金字の如く、黄金を以て器物を作るは、金の形相より名字を得るが故なり。地水火風空の五大種子は色身を構成すれども、亦身に非ず。何故か。身は細滑の触を了別する能あり。人死して後も尚地水火風空有れど、細滑の触を知らざる故に、地水火風空は身に非ざるを知るべし。実は四陰身も亦空、意根も亦空、全ては空にして無所有、受覚も無し。何故ならば、人死して後は復た受覚無きが故に、一切は空なりと説く。意根が身体を離るれば、亦受覚無し。五陰身は只因縁の和合に依りて有るのみ。因縁离散すれば、終に還って無有に帰し空無と成る。 

原文：身中に十二の風有り。上気風・下気風・眼風・耳風・鼻風・背風・脇風・臍風・臂風・足風・曲風・刀風。刀風は病人に至り、生を殺す刀風。刀風は人命を断截す。生老病死。生とは母胎に初めて堕つ時を生と謂う。既に生ずれば便ち老ゆ。止とは意中の止を謂う。止を用うるが故に敗れ、氣息の出入を見て身本を了る。 

釈：衆生の身中に十二種の風有り。上行気の風・下行気の風・眼風・耳風・鼻風・背中の風・脇の風・臍の風・腕の風・足の風・隠微なる風・刀風。刀風は人を傷つけ、生を殺し、人の命を断つ。人に生老病死有り。生とは母胎より初めて堕ちた時を生と称す。生じた後次第に老ゆ。命の終わりを死とす。終わる時は意根が色身に於ける止滅なり。意根の色身に於ける作用が止むが故に、敗れたる氣息現れ、此時身の本来を了知す。 

原文：十事を合して敗と為す。身中に五事有り。一に地、二に水、三に火、四に風、五に空。堅きを地と為し、軟らかなるを水と為し、熱きを火と為し、気を風と為し、飲食の出入する所を空と為す。亦余の因縁和合して人と成る。自ら我が身と計度す。若し万物を身と為さんと欲せば、当に五因縁の和合有るを較べ計るべし。一に色、二に痛痒、三に思想、四に生死、五に識。是の十事共に和合して、便ち生死を見る。 

釈：十種の事柄が合わさって壊敗を成す。身中に五事有り：地・水・火・風・空。堅きは地、柔らかきは水、熱きは火、氣息は風、飲食の出入する所は空。他の因縁和合して人と成る。自ら五蘊和合を我が身と執着す。万物を悉く身と為さんと欲せば、更に五因縁法を和合せしむ：色陰・受陰・想陰・行陰・識陰。此の十因縁和合するに依り、生死の法顕現す。