慧心所法の運行作用

八つの識には全て慧心所法があり、慧とは明であり、慧が無いことは無明である。慧心所法は、識心が縁となる相分に対する明らかさを示すものであり、当然この明らかさには程度の差がある。第八識のみが縁となる相分を完全に明らかにし、無明が存在しない。他の七つの識は縁となる相分に対する明らかさに程度差があり、完全な明ではなく無明を残し、無明が明よりも多い。明の程度は、縁となる様々な相分に対する明らかさの違いに現れ、異なる因縁条件の下で縁となる相分に対する明らかさが異なる。

慧心所法は他の心所法と並行して混合的に作用し、分離することはない。もし識心が作用する過程で慧心所法が働かなければ、識心の作用は混乱し、対応する相分の了別が不明瞭となり、正しく道理に適った真実の選択を下すことができず、迅速な判断も不可能となる。その結果は推して知るべしである。慧心所法は五遍行心所法が作用するあらゆる段階で発動し、五別境の他の心所法が作用する際にも必ず発動する。そうでなければ識心は混乱し、真実に即した道理に適った選択を行うことができない。

例えば眼識の作用において、眼識自体の最初の作意と触には慧心所法の関与がないかもしれないが、その後の作用には慧心所法が参与する。眼識が色塵を受け入れる際に慧心所法が発動すれば、色が何であるかを知り、その後色塵を執取する際に慧心所法が発動し、色塵を選択判断する際には更に慧心所法が働く。慧心所法が強ければ強いほど、より智慧に満ちた選択が可能となり、結果もより善となる。他の諸識も同様であり、特に第六識と第七識の作用においては、慧心所法の作用力がより大きく、慧もより強くなる。ただしこの慧も世間的な慧と仏法上の慧に分かれ、世間慧は実際には無明であり真の明ではなく、解脱や仏道成就につながらず、むしろ世俗の輪廻に深く陥り自覚できない可能性がある。

別境心所法の作用においても、慧心所法は常にこれと共に作用する。慧心所は欲心所と結合して作用し、勝解心所法と結合して作用し、念心所と結合して作用し、定心所と結合して作用する。しかし慧心所法の慧力には強弱があり、作用の大小によって結果に極めて大きな差異が生じる。