優婆塞五戒相経 第五節 原文:仏は支提国跋陀羅婆提邑におられた。この地には悪龍がいて、名を庵婆羅提陀といい、凶暴で害をなすため、誰もその地に至ることができなかった。象・馬・牛・羊・驢馬・ラバ・駱駝も近づくことができず、あらゆる鳥類すらその上空を飛び越えることができなかった。秋に穀物が熟する時には、諸々の穀物を破滅させた。
釈:仏が支提国跋陀羅婆提という都市におられた時、この地には庵婆羅提陀という名の悪龍がおり、凶暴で毒々しく、人々がその場所に到達することはできず、象・馬・牛・羊・驢馬・ラバ・駱駝といった家畜も近づくことができなかった。あらゆる鳥類でさえ悪龍の頭上を飛び越えることは叶わず、秋に稲が実る時期には、それらの穀物までもが破壊された。
原文:長老莎伽陀が支提国を行脚し、次第に跋陀羅波提に至った。その夜を過ごした後、朝に衣を着け、鉢を持って村に入り托鉢をした。托鉢の際、この邑に庵婆羅提陀という名の悪龍がおり、凶暴で害をなすため、人々も鳥獣もその住処に近づけず、秋に穀物が熟する時には諸々の穀物を破滅させると聞いた。
釈:その時、長老莎伽陀が支提国を行脚し、次第に跋陀羅波提という都市に到着した。一晩過ごした後、長老は朝に衣を整え、鉢を持って村に入り托鉢をした。托鉢の過程で、この都市に庵婆羅提陀という名の悪龍がおり、凶暴で毒々しく、人々も鳥獣もその住処に近づくことができず、秋に稲が実る時期には全ての稲を破壊すると聞いた。
原文:聞き終え托鉢も済んだ後、庵婆羅提陀龍の住処である泉のほとりの木の下へ行き、坐具を敷いて結跏趺坐した。龍が衣の気配を嗅ぎ、即座に瞋恚を起こし、体から煙を出した。長老莎伽陀は直ちに三昧に入り、神通力によって自らも煙を出した。龍は倍増して瞋恚し、体から火を出した。莎伽陀は再び火光三昧に入り、自らも火を出した。
釈:長老は聞き終え托鉢も完了した後、庵婆羅提陀龍の住処へ向かい、泉のほとりの木の下で坐具を敷き、結跏趺坐した。龍が衣の匂いを嗅ぎつけ、即座に瞋恚を発し、体から煙を立ち上らせた。長老莎伽陀は直ちに三昧に入り、神通力によって自らの体からも煙を立ち上らせた。龍はさらに激しく怒り、体から火を噴いた。莎伽陀は再び火光三昧に入り、自らの体からも火を噴いた。
原文:龍は再び雹を降らせた。莎伽陀は即座に雹を釈俱䴵(二重の餅)、髄餅、波波羅䴵に変じた。龍は再び霹靂(雷撃)を放った。莎伽陀はそれを種々の歓喜丸䴵(丸餅)に変じた。龍は再び弓矢や刀・槊(矛)を雨のように降らせた。莎伽陀は即座にそれらを優鉢羅華(青蓮華)、波頭摩華(赤蓮華)、拘牟陀華(黄蓮華)に変じた。
釈:龍が再び雹を降らせると、莎伽陀は直ちに雹を二重の餅、長餅、波波羅餅に変えた。龍が再び霹靂(雷撃)を放つと、莎伽陀はその霹靂を種々の歓喜丸餅(丸餅)に変えた。龍が再び弓矢や大刀を雨のように降らせると、莎伽陀はそれらを優鉢羅華、波頭摩華、拘牟陀華に変えた。
原文:その時、龍は再び毒蛇・蜈蚣(ムカデ)・土虺(土蜘蛛)・蚰蜒(ゲジ)を雨のように降らせた。莎伽陀は即座にそれらを優鉢羅華の瓔珞、瞻卜華の瓔珞、婆師華の瓔珞、阿提目多伽華の瓔珞に変じた。このように龍が有する全ての勢力(神通力)を尽くして莎伽陀に向けて現わしたが、このように威徳を示した後も勝つことができなかったため、直ちに威力と光明を失った。
釈:その時、龍は再び天から雨のように毒蛇、蜈蚣、土虺蛇、蚰蜒(ゲジ)を降らせた。莎伽陀は直ちにそれらの害獣を優鉢羅華の瓔珞、瞻卜華の瓔珞、婆師華の瓔珞、阿提目多伽華の瓔珞に変えた。かくして龍はありったけの神通力を莎伽陀に向けて発揮し、全ての神通を示し終えた後もなお莎伽陀に勝つことができず、ついに体の威徳と光明を失った。
原文:長老莎伽陀は龍の力勢が尽き、もはや動けなくなったことを知った。即座に細かな身に変じ、龍の両耳から入り、両眼から出た。両眼から出た後、鼻から入り、口から出た。そして龍の頭上を行き来し経行したが、龍の体を傷つけることはなかった。
釈:長老莎伽陀は龍の全ての勢力が尽き、もはや動けなくなったことを悟った。そこで極めて細かな身体に変じ、龍の両耳から入り、龍の両眼から出た。両眼から出た後、龍の両鼻から入り、再び龍の口から出た。最後には龍の頭の上を行ったり来たり経行したが、龍の身体を傷つけることはなかった。
原文:爾の時、龍はこのような事態を見て、心は大いに驚き、恐怖のあまり体毛が逆立った。合掌して長老莎伽陀に向かい「私は貴方に帰依します」と言った。莎伽陀は答えて言った。「私に帰依してはならない。私の師に帰依せよ。仏に帰依せよ。」龍は言った。「私は今より三宝に帰依します。この身命が尽きるまで仏の優婆塞(在家信徒)となることを誓います。」この龍は三自帰(三宝への帰依)を受け、仏の弟子となった後、以前のような凶悪な行いは二度と行わなかった。人々も鳥獣も皆その住処に至ることができ、秋に穀物が熟する時も、もはや損なうことはなかった。かくしてその名声は諸国に広く流布した。
釈:その時、龍はこのような光景を目にし、心中大いに驚き、恐れ慄いて体毛が逆立った。合掌して莎伽陀に「私はあなたに帰依します」と言った。莎伽陀は「私に帰依してはなりません。私の師匠に帰依しなさい。仏に帰依しなさい」と答えた。龍は「私は今日から三宝に帰依し、この一生を尽くすまで仏の在家弟子となります」と言った。龍は自ら三帰依を誓い、仏の弟子となった後は、二度と以前のような悪事を行わなくなった。あらゆる人々や鳥獣がその住処に近づけるようになり、秋に穀物が実る時期にも、もはや破壊することはなかった。このような変化、すなわち一心に善に向かうという名声は、他の国土にも伝わった。
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