優婆塞五戒相経 第一節 原文:もし居士が母と思って母でない者を殺せば、不可悔罪を犯す。ただし五逆罪ではない。もし戯れに人を打ち、死なせた場合は、この罪は悔いることができる。もし狂乱して自ら覚えずに殺した者は無罪である。
釈:居士が母を殺そうと思いながら、実際には母でない者を誤って殺した場合、不可悔罪を犯すが、五逆罪には当たらない。居士が心の中で殺そうとした対象は母であるが、実際に殺したのは母ではないため、逆罪にはならない。もし人と戯れて打ち合い、相手を死なせた場合は過失致死となり、可悔罪を犯す。もし精神錯乱状態で相手を認識できず、殺害した場合は無罪である。殺意が存在しないためである。
原文:もし優婆塞が虫のいる水を用い、あるいは草木の中で虫を殺す場合は、いずれも殺罪を犯す。もし虫がいるのにいないと思い込んで使用しても、同様に犯す。もし虫がいないのにいると思い込んで使用する者も、同様に犯す。
釈:優婆塞が虫の入った水を飲用・廃棄・灌漑に用いて虫を死なせた場合、または直接草木上で虫を殺害した場合は、全て殺罪を犯す。明らかに水中に虫がいると知りながら虫はいないと自己欺瞞し、水を使用した場合も殺罪を犯す。水中に虫がいないのに虫がいると偽って思い込み、水を使用した場合も殺罪を犯す。殺意が存在するためである。
水中に明らかに虫がいないにもかかわらず、虚構の虫を想定し、その「虫のいる水」を敢えて使用するのは、いったい何の得があろうか。実際には虫はおらず殺してもいないのに、なぜ殺戒を犯したとされるのか。心の念いが清浄でなく、殺意があるためである。一方、実際に虫が含まれる水を、その存在を知らずに使用して虫を死なせた場合は、殺戒を犯したとはみなされない。殺意がなく、虫の命が軽微であり、故意ではないため、犯戒にはならない。
原文:ある居士が新居を建て、屋根の上にいた際、手にしていた梁を落とし、大工の頭上に堕ちて即死した。居士は疑念を生じ、この罪が悔やめることができるかどうかを仏に問うた。仏は「無罪である」と述べられた。屋上の梁は、人の力が足りず支えきれなかったため、大工の頭上に落ちて死に至らしめたのである。居士がなお疑念を抱くと、仏は「無罪である。今日より細心の注意を払い、人を殺さぬよう心がけよ」と諭された。
釈:ある居士が新築の家を建てている際、屋根の上に座り、手にしていた梁を誤って落とし、大工の頭に当たって死なせてしまった。居士はこの殺人罪が懺悔可能か否か理解できず、仏に質問した。仏は「お前には罪がない」と答えられた。
新居建設中、人力が不足して梁を支えきれず、屋根から梁が落下して大工の頭を直撃し死亡した。居士が自身の罪の程度について不明瞭であったため、仏は「お前には罪がない。しかし今後は物事を注意深く行い、細心を期して再び過失で人を殺すことのないようにせよ」と諭された。
原文:別の居士が屋上で作業中、泥中に蠍を見つけ恐怖のあまり飛び降り、下にいた大工の上に堕ちて即死させた。居士は疑念を生じたが、仏は「無罪である。今日より細心の注意を払い、人を殺さぬよう心がけて作業せよ」と述べられた。また別の居士が日暮れに危険な道を通りかかり賊に遭遇、捕らえられまいと逃げる際、岸下で衣類を織っていた人物の上に堕ち、織工を即死させた。居士が疑念を抱くと、仏は「無罪である」と宣言された。
釈:また別の居士が屋上で作業中、泥の中に蠍がいるのを見て恐怖を覚え、屋根から飛び降りたところ、たまたま下にいた大工の上に落ちて死なせてしまった。居士は自身にどのような罪があるか分からず、仏は「お前には罪がない。今後は行動を慎重にし、注意を払って再び過失で人を殺すことのないようにせよ」と諭された。
さらに別の居士が日没後、危険な道を歩いていたところ賊に出くわし、賊が捕らえようとしたため、居士は賊から逃げようとして誤って下で衣類を織っていた人物の上に落下し、織工を即死させてしまった。居士は自身の罪が分からなかったが、仏は「お前には罪がない」と宣言された。
原文:また別の居士が山の上から石を転がしたところ、落下した石で人を殺害した。疑念を生じ仏に問うと、仏は「無罪である。ただし石を転がす際には、必ず事前に『石が落ちるぞ』と警告し、人々に知らせよ」と述べられた。また、一人の者が未熟な癰瘡(腫れ物)を患っていたところ、居士がこれを破ったため死に至らしめた。居士が疑念を抱くと、仏は「癰瘡が未熟の状態で破れば、人は死ぬ。これは中罪で悔いることができる。もし成熟した癰瘡を破って死なせた場合は無罪である」と宣言された。
釈:また別の居士が山の上から石を転がし、石が転がり落ちて人を死なせてしまい、居士は自身の罪が分からなかった。仏は「お前に罪はない。ただし今後石を転がす際には、必ず先に『石が落ちるぞ』と叫び、人々に知らせよ」と諭された。
ある病人が皮膚に癰瘡(化膿性腫瘍)を患い、まだ膿が熟していない状態であった。居士がこれを破ったため患者が死亡し、居士は自身の罪が分からなかった。仏は「癰瘡が未熟の状態で破れば、人は死ぬ。これは中程度の可悔罪である。もし熟した癰瘡を破って死なせた場合は無罪である」と宣言された。
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