第一節 殺生戒第一
(一)原文:如是我聞。一時仏迦毘羅衛国に在しましき。其の時浄飯王仏の所に詣りて。頭面礼足し。合掌恭敬して仏に白しき。願わくは請い求めんことを欲し、自らを済度せん。唯願わくは世尊哀みて我が志を酬いたまえ。仏の曰く。得べき願い、王の求むるに随え。
釈:私は(阿難)自ら仏よりこのように聞きました。ある時、仏が迦毘羅衛国におられた際、浄飯王が仏の住まいを訪れ、頭を地につけて仏足を礼拝し、合掌して恭しく申し上げました。「法を請いたく、自らを救済したく存じます。どうか世尊は慈悲をもって私の願いを満たし賜わらんことを」。仏は「汝の願いを満たそう。王の求めに従う」と答えられました。
原文:王仏に白しき。世尊は既に比丘・比丘尼・沙弥・沙弥尼の為に戒の軽重を制したまえり。唯願わくは如来も我等優婆塞の為に、悔いる可きと不可きを分別し五戒を説きたまえ。戒相を識らしめ、疑惑無からしめん。仏の曰く。善哉善哉、憍昙よ。我が本心に念う、久しく優婆塞と五戒を分別せんと欲す。若し善男子戒を受持して犯さざる者は、此の因縁を以て仏道を成ぜん。若し犯して悔いざる者は、常に三塗に在るが故なり。
釈:浄飯王は仏に申し上げました。「世尊は既に出家者である比丘・比丘尼・沙弥・沙弥尼のために重戒と軽戒を制定されました。どうか在家信者である私どものためにも、悔過可能な戒と不可な戒を区別して五戒を説き示し、戒の相を理解させ、疑念を除かせてください」。仏は「良きかな良きかな、憍昙(ゴータマ)よ。私も本来より在家信者に五戒を説き分けたいと念じてきた。もし善男子が戒を受持して犯さぬなら、この因縁によって仏道を成就するであろう。もし犯して悔い改めぬ者は、常に三悪道に堕ちるであろう」と答えられました。
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