阿闍世王はなぜ地獄の業を消滅させ、極楽往生を遂げることができたのか

阿闍世王は父を殺した業障によって覆われていたため、仏が直々に説法をされましたが、彼は無根信を得るに留まり、根本的な我見を断じて初果を証することはできず、ただ初果向の境地に至りました。初果向でも三悪道の業を消滅させ、解脱への第一歩に近づくことができるため、極楽浄土に往生することが叶ったのです。一般的に、仏陀が直々に説法して衆生を摂取される場合、業障が極めて重くなければ、初果から四果までのいずれかを証するものですが、阿闍世王は証果を得られませんでした。とはいえ父殺しの業は軽くないものの、この無根信は既に優れた境地であり、初果向を得たことで地獄の業を消し去るには十分でした。

阿闍世王が未来世で再び父と出会えば、業債を返済するため再び殺される因果を免れないかもしれません。しかしもし阿闍世王が前世で父と怨業を結んでいたならば、今世における父殺しは前世の怨みを報いる行為となり、この業債は清算され、再び償う必要はなくなります。実際、阿闍世王が父を殺害したのは、前世で父と怨業を結んでいたためであり、今世はその報いとしての行為であったため、父殺しの業もさほど重くはなく、仏陀の説法を聞くことで消滅したのです。さらに彼の父は証果を得て昇天後も常に阿闍世王に付き従い、前世の罪業を懺悔し続け、絶えず激励と加護を与えたため、阿闍世王は慚愧の心を起こし、仏の説法に遇うことで父殺しの地獄業を消し去りました。

業を消滅させる仏陀の摂受力は極めて大きく、他に比類するものはありません。業を消された阿闍世王には懺悔心と慚愧心が生じ、業障が極めて重くはなく、また前世の因縁があったため、結果として地獄に堕ちることなく極楽浄土に往生できたのです。もし仏陀が阿闍世王に説法されず、他の菩薩や阿羅漢、あるいは普通の人間が説法したならば、阿闍世王は無根信を得て地獄業を滅し極楽往生を果たすことはなかったでしょう。

業の消滅は智慧によってなされます。程度の異なる智慧がそれぞれのレベルの業を消し、業が尽きて仏となります。六道輪廻の業を消すのは、四果の阿羅漢や辟支仏の修行境地です。凡夫も業を消しますが、それは浅いレベルの業に過ぎず、業の種類とレベルは多様で、個人の修行の程度に応じて異なる次元の業を消します。真の意味で業を消すとは、あらゆる煩悩を断じることです。業が消えれば再び造ることがなくなり、煩悩を断たなければ、一部の業は消えても機縁があれば再び造ってしまいます。道理を究めようとせず、ただ業を消すことのみを求めて諸仏菩薩にすがる人々がいますが、消した業を再び造るならば、それは無益な行いです。ただ真理を悟り心を変えることによってのみ、業は消えて現れなくなります。そして心を変えることは自らの課題であり、他者の力では成し得ないのです。