意根の受

意根は捨受のみならず、苦楽受も有す。意根には無明と煩悩があり、善悪の心所法あるが故に、必ず苦楽受を生じ、苦楽受により貪りと瞋恚の煩悩が起こる。仮に意根に捨受のみあれば、打たれ罵られ辱められても動じることなく、意識に不快感生ずるも瞬時に消え、報復行動など起こさぬ。これこそ大修行者の良き修養と徳性なり、凡夫には到底及ばぬ境地なり。意根に捨受のみあれば、賞賛され天に昇らるるも動ぜず、権勢・色欲・名利の前にしても無関心、追い求めず、栄華富貴を淡泊に受け流す。意識に好む心あれども、僅かなる愛着に留まり、行動に移すことなし。これ大修行者の徳行修養の現れなり、凡夫には到底見られぬ姿なり。

意根が六塵の境界を受容するには多く六識を介するが故に、六識の境界を了別する機能顕著なるがため、受も明らか且つ直接なり。これに対し意根の受は間接的で晦渋、意識に察知され難きゆえ、意根に受なしと説かるる所以なり。色身における受は意識と身識が直接受け、痛みや快適さを直覚するものなり。六識なき時、色身の痛触・楽触に対し、意識も身識も感覚なし。されどこの時意根に感覚あるか。必ず感覚あるが故に、昏迷や睡眠中も意根は六識を喚起して了別せしめ、色身の問題を処理せんとす。たとえ六識を喚起せずとも、昏迷・睡眠中の表情や姿勢が、意根に覚受あることを示す証左なり。

衆生は六識の受をもって受と為すゆえ、意根の受を体得せず、意識の智慧不足にして道種智なき時は、意根に受あるを観察できぬ。故に多くの者が意根に受なしと説くも怪しむに足らず。しかしこれ正理にあらず。五遍行心所法は作意・触・受・想・思なり。意根も五遍行心所法を具えるが故に、必ず受を有す。