『持世経』原文:智者は正しく観察し選択し、識陰に通達す。陰ならざるものが識陰である。凡夫は識陰にあらざるものに識陰の相を生じ、覚観・分別・憶想によって。顛倒と相応し。虚妄の相に束縛され、強いて名づけて識陰と為す。識陰を貪着する。識ることを依止し、識陰に依止して種々の示現を思惟するがゆえに、識陰を生起す。この人は種々に分別し、内識を貪着し、外識を貪着し、内外識を貪着し、遠き識を貪着し、近き識を貪着す。識の相を以ての故に、分別して識陰を起こす。
釈:智慧ある者は正しく観察し、択び、通達すべきである。いわゆる識陰は本来、陰入自体の性も相もなく、識陰なきものに仮に識陰と名づけるのである。しかし凡夫は識陰にあらざる法に対して識陰の相貌を生じ、自らの覚観・憶想・分別を用いて、顛倒心と相応し、虚妄の相に束縛され、強いて名づけて識陰とする。凡夫は虚妄の相を識陰として貪着し、虚妄の識別性に依止し、識陰に依止して、種々に識陰の思惟機能性を示現し、識陰の相を生起する。
凡夫は種々に分別し、身内の塵を識別しうる内識を貪着し、身外の塵を識別しうる外識を貪着し、内外識を貪着し、過去未来の遠き識を貪着し、現在眼前の近き識を貪着する。虚妄に識心の相貌を了別するゆえに、虚妄の識心の相貌を了別し、これらの虚妄の相貌を執って識陰と為す。
原文:この人は憶想分別によって。若し心、若し意、若し識。仮借して強いてこれが心、これが意、これが識と名づく。かくの如く知りて種々の心相生ず。これ凡夫の識陰を貪着するなり。識陰に束縛され、心・意・識が和合するがゆえに、種々の識陰を起こす。虚妄の事を分別するがゆえに。一相を以ての故に。決定相を以ての故に。これが心、これが意、これが識と得ること能く、分別愛着することを得。
釈:凡夫は憶想分別を頼りに、これが心、これが意、これが識と言い、識心の相貌を仮借して、強いて心・意・識と名づける。かく分別して後、心中に識心の種々の相貌を生起す。凡夫は識陰を貪着するがゆえに、識陰に束縛され、心・意・識が和合して、初めて識陰を顕現する。ここにおいて心中に識陰の相貌を生起す。識陰が虚妄に種々の事相を分別しうるがゆえに、虚妄に識陰の和合相を見るがゆえに、心中に識陰に相貌ありと決定するがゆえに、凡夫はこれが心・意・識であると執り、かつ分別し貪着する。
原文:この人は識陰に依止し、識を深く貪るがゆえに。また過去の識陰を得、貪着して有を念う。また未来の識陰を得、貪着して有を念う。また現在の識陰を得、貪着して有を念う。諸凡夫は見聞覚知の法中において、識陰を得たりと計り、貪着して有を念う。この人は見聞覚知の法を貪着し、識陰に束縛され、その知ることを貴び、心・意・識が和合して繋縛するがゆえに、馳走往来す。いわゆるこの世よりかの世に至り、かの世よりこの世に至る。皆識陰に束縛されるがゆえに、能く識陰を如実に知ることあたわず。
釈:凡夫は識陰に依止し、識陰を深く貪着するがゆえに、また過去の識陰に執り、識陰を貪着して実在すると執る。ここにおいて未来の識陰を執り、識陰を貪着して実在すると考え、また現在の識陰に執着する。
識陰を貪着して実有の法と為すがゆえに、諸凡夫は一切の見聞覚知の法中において、計着して識陰の機能作用と執る。識陰を有として貪着計着するがゆえに、凡夫は見聞覚知の法を貪着し、識陰に束縛され、能知能覚の法を宝愛し貴重とする。心・意・識の三者が和合して共同にその心を繋縛するがゆえに、凡夫は六道の中で絶えず生死輪廻し、生まれ死に、死に生まれ、この世から後世へ、前世からこの世へと往来する。皆識陰に繋縛されるがゆえに、識陰を如実に了知し、看破することができない。
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