導師は遭い難く 聞く者喜ぶもまた難し
大人の楽しみて聴く所 小人の憎みて聞く所
衆生は愍むべきかな 老死の険路に墜ち
野人恩愛の奴となり 畏るべき処に痴にして懼れず
世界の若し大小あれど 法に常なる者無し
一切は久しく留まらず 暫く現れては電光の如し
この身は老死に属し 衆病の帰する所
薄皮に覆われたる不浄 愚惑これに欺かれる
汝は常に老賊と為り 盛壮の色を吞み滅ぼす
華鬘の如く枯れ朽ち 毀れ敗れて直る所無し
釈:三界の大導師釈迦牟尼仏は説きたまう、この坐禅三昧経は値い難く遇い難しと。この経を聞く者が歓喜心を生ずることもまた稀なり。大いなる心を発して無上仏道を求める者こそ喜んで聞くも、心量狭く無上菩提を求めぬ者は聞くことを欲せず。衆生はまことに憐れむべく嘆かわし、生老病死の険路に堕ち、生死の曠野に恩愛の奴隷となり、畏るべき処にあって恐懼を知らず。世界の大小を問わず、世の一切法は常住ならず、全ては暫く留まって電光の如く速やかに消え去る。
この無常の色身は生老病死一切の煩悩の集まる処、薄皮に覆われた汚穢不浄の物、愚かな者はこの不浄の身に欺かれる。汝らは常に老いの賊に盛壮の身を奪われ、華鬘の枯れ朽ちたるが如く、何の価値も無きものとなる。
頂生王の功德 釈天王と共に坐す
報利福は弘く多し 今日悉く安き処に在りや
この王は天人中 欲楽の具最も勝れたり
死時極めて苦痛 これ以て意を悟るべし
諸欲は初め柔らかなれど 後皆大苦と成る
怨みの初め善きが如く 滅族の禍は後に在り
この身は穢れの器 九孔常に悪を流す
那利瘡の如く 医薬を絶ち治め難し
骨車の力甚だ少なく 筋脈纏わり識転ず
汝これを妙乗と為し 忍んで羞恥無きに着す
死人の聚まる処 委ね棄てられ塳間に満つ
生時の保ち惜しむ所 死すれば皆棄て捐つ
釈:昔し頂生転輪聖王は四天下を統べ、天に昇り欲界天主釈提桓因と共座して天界を分領せしが、その果報殊勝なる福徳広大なる者、今いずこに在るや。この王は人天の中で歓楽の資具最も勝れたりしが、死の時は極めて苦痛なりき。ここに一つの道理を悟るべし。世の五欲の楽は初めは快適なりしも、後には皆大いなる苦となる。怨家相遇う時、初めは和やかなりしも、九族を滅ぼす禍は後に迫るが如し。
この五陰の身は穢れに満ちたる器、九孔より常に悪露不浄を流す。まさに悪瘡の如く、最早医薬治すべからず。骨を以て造れる車は牽く力弱く、筋脈絡みて識心転ず。汝らこれを妙なる車輿と為し、忍苦して羞恥を知らず、遂には死人の集う荒野の墓場に棄てられん。生きし時は百方に護り愛しみしも、死しては皆棄て去らる。
常にこの如く念うべし 一心に観じて乱す莫れ
痴倒の黒闇を破り 炬を執りて明らかに観よ
若し四念処を捨てば 心は悪を作らずんばあらず
象の逸るる鉤無きが如く 終に調道に順わず
今日はこの業を営み 明日は彼の事を造る
苦を観ずして楽に着し 死賊の至るを覚えず
匆匆として己が務め 他事も亦閑ならず
死賊は時を待たず 至れば脱する縁無し
鹿の渇き泉に赴くが如く 已に飲みて水に向う時
狩人の慈悲無く 飲み終わるを待たずして殺す
痴人も亦この如し 勤めて諸事を修すれど
死の至りは時を選ばず 誰か汝が為に護らん
釈:汝ら常にこの如き念いを起こすべし。専心一意にこの法を観じ、心を散乱させてはならぬ。必ずや愚痴迷妄の闇を破り、智慧の炬火を執って明らかに観照せよ。もし四念処の止観修行を捨てれば、心は悪を造らざるを得ぬ。鉤鎖なき象が放逸するが如く、調教師の指す道に従わざるが如し。今日はこの事を為し、明日はあの事を営み、所作に楽着してその中の苦を観ぜず、気付かぬ内に死の賊は到来す。一生を匆匆と自らの事業に忙殺され、他事にも心を砕く。されど死の賊は時節を待たず、到来すれば逃るる機会無し。渇える鹿が泉に赴き、飲み始めた水を、猟師は慈悲もなく飲み終わるを待たず殺すが如し。愚かな者もまた然り。精勤して諸業を造作すれど、死の来臨は時を選ばず、その時誰か汝を護らん。
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