『父子合集経』選講

大王よ、かの識が生起する時、来る所なく、滅するに至る所なし。その縁生する時、来る所なく、滅するに至る所なし。かの業生起する時、来る所なく、滅するに至る所なし。大王よ、微塵ほどの法も此の世より他世に至ることは無し。何を以ってか。自性空なるが故に。

しかし善業も悪業も、その本性は空にして、主宰する能わず、生滅常なく、生ずるに来処なく、滅するに去処なし。幻化実ならず。例えば我が刀を執り人を殺す時、この事をなす前には、この業は存在せず、来処もなし。この行為の造作にも造作する者無く、表面の現象は魔術師の幻化の如く、造業者無し。人を殺す行為は色身と識心の和合作用によるが、色身は虚妄、識心は虚妄、実有ならず、五陰の行為は真実ならず。しかも殺人の行為が現れた後、刹那に消失して影形も無し。故に行為造作そのものが空なり、但だ業種を残す。

而して業種そのものもまた空なり、来る所なく滅するに去る所なし。無所有より無所有に至り、報いを受けた後、業種もまた消滅して影形無し。業種もまた空にして虚妄なり。もし業種が虚妄ならざれば、報いを受けた後、あるいは懺悔した後に業種は消失すべからず。もし業種が消失せざれば、衆生は永劫に報いを受け、殺人者は永劫に地獄の報いを受け、永劫に屠殺され、尽きる期無かるべし。故に一切の罪福業は虚妄にして、来る所なく去る所なしと言うべし。然りといえども、一切の福業は終に衆生をして次第に成仏に向かわしめ、遂には仏果を成就せしむ。一切の罪業は終に衆生をして苦受尽きず、哀嘆止まざらしむ。分析を重ぬれば、ただ阿頼耶識のみが真実不変、不生不滅、永劫に存在す。その余の一切法は空にして幻化、刹那刹那に生じ、刹那刹那に滅す。生滅の速さは電光よりも速し。