一切の法は幻化にして実体なく、貪り執着する心は徒らに益なし
原文:仏は王に告げたまわく「大王、意いかん。この人の夢見しことを執りて実と為すは、是れ智者ならんや」。王言う「世尊、然らず。何を以っての故に。夢中には畢竟、宝媛あること無く、況んや彼の美妙なる触受あらんや。当に知るべし、この人は徒らに自らを労するのみにて、都て得る所なし」。
釈:仏は説きたまう「大王、どう思われるか。この者が夢に見たことを実体あるものと執着するのは、智者と言えようか」。浄飯王は答えた「この者は智者ではありません、世尊。なぜなら、夢の中には本来美しい女性など存在せず、ましてやその妙なる触受などありえません。この者はただ心を空しく疲労させただけで、何ら実益を得られないのです」。
世尊の父君は深く覚り、夢中に真実の愛すべき女性は存在せず、ましてや妙なる欲触など全く無いことを知っておられた。実際の日常生活においても、一切の人事物は夢の如し。夢中にはあたかも諸法が存在するが、畢竟実体なく、全ては幻化にして真実でなく、実用的価値無し。諸仏は三界の生死という大夢から既に覚醒し、一切法が畢竟無所有なることを了知し、その相が皆幻化不実なる故に、一切の貪欲と執着を断じ、心に一法も無き境地に至る。
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