薬王・薬上の二法王子並びに会中の五百梵天は、即座より立ち上がり、仏足を頂礼して仏に白しき。「我ら無始劫より世の良医たり。この娑婆世界の草木金石を口中に嘗め、その名数凡そ十万八千に及ぶ。かくの如く苦酢鹹淡、甘辛等の味を悉く知り、諸々の和合俱生変異、冷熱の別、有毒無毒を遍く知り得たり。如来に奉仕し、味性の空有に非ず、身心に即するにも非ず、身心を離るるにも非ざるを了知す。味因を分別し、ここより悟りを開く。仏如来の印可を受け、我ら兄弟に薬王・薬上の二菩薩名を賜う。今この会中に法王子と為り、味覚の明により菩薩位に登る。仏の円通を問わるるに、我の証する所に依れば、味因を以て上と為す」
釈:薬王と薬上の二法王子及び五百梵天衆は座より起ち、仏足を礼し申し上げた。「我ら兄弟は無始劫よりこの世に良医として生を重ね、娑婆世界の草木金石等の薬材を遍く嘗め、その数無量なり。故に苦・酸・鹹・淡・甘・辛等の味覚及びそれらが和合して生じる変異の味を識別し、薬性の寒熱・毒性の有無を悉く弁え得た。如来に奉仕するに及び、次第に味性が空でも有でもなく、身心に属さずとも身心を離れざる理を悟った。味塵の生因を参究し開悟を得、如来より薬王菩薩・薬上菩薩の名を授かり、法王子としてこの法会に与る。味覚の因を弁じて諸法の真実相を悟明し、菩薩位に登った。仏が円通法門を問われた故、我らの証する所によれば、味塵の生因を弁ずるを第一円通法門とす」
薬王・薬上の二菩薩は六塵中の味塵より入道し、法王子の位に至り、仏に最も近い等妙覚菩薩となられた。長く薬材の味に触れる中で疑情を起こし、味塵の由来を探究するに、その来処去処を得ず、因縁和合によって生じる法たるを証し、空有を離れ、如来蔵の縁起による幻化の産物たるを悟った。ここに般若の大智慧が生じ、仏の印可を受け法王子となり、やがて成仏するに至る。一切の万法は深甚なる禅定においてその生因を究明する時、因縁熟すれば小乗の空・大乗の空を証得し、空有不二・非一非異の微妙なる関係を明らかにし、永く諸法に迷わされざる境地を得るのである。
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