金剛経唯識深義（一四五）

世尊が我見・人見・衆生見・寿者見を説かれたのは、真実の我見・人見・衆生見・寿者見が存在するからではなく、あえて仮に我見・人見・衆生見・寿者見と名付けたに過ぎないのである。須菩提のこの言葉は、我見・人見・衆生見・寿者見という知見の実在性を否定し、経文の前半に説かれた般若の教義に符合する。これらは真実の法ではないため、修行によって除去可能であり、四相を破ることで「所謂...即非...是名...」の論理が成立する。この論理は世間の万法が実体を持たず、全て如来蔵の顕現であることを示す。

我見・人見・衆生見・寿者見の四邪見も、世間の万法同様に後天的に生じ滅びる法である。一瞬ごとに生滅を繰り返すが、その速度が速すぎるため衆生は実体あるものと錯覚し、誤った見解を形成する。これらの邪見は真実ではなく、如来蔵の種子機能によって生じた仮の相に過ぎない。真実なら修行によって断じ得ず、正知見を得ることは不可能である。

我見とは我相に対する知見で、正見は我相の空を悟り、誤見は我相の実在を執着する。衆生が我と見做す対象は色身・六識心・第七識意根、あるいは五陰・十八界の仮和合体である。これらは因縁生で実体なく、如来蔵の四大種子から生じた幻影である。受陰は六識の感受作用、想陰は六塵への執取、行陰は身口意の遷流、識陰は六識の了別作用、いずれも如来蔵の種子から生滅する。五陰十八界は刹那に変化し、衆生の誤執によって実体化される。

我見を生じる主体は第六識（断続的我見）と第七識（俱生的我見）である。第六識は現世限りの断続的作用、第七識は無始以来続く俱生執着を担う。両識とも如来蔵の種子によって生起し、実体なき幻の作用である。人見・衆生見・寿者見も同様に、如来蔵から生じた六七識の妄見に過ぎない。これらの邪見は陽炎の如く実体なく、その本質は如来蔵に帰する。煩悩即菩提の理と同様、邪見も如来蔵の機能作用に他ならない。