金剛経唯識深義(十八)

大乗正宗分第三

原文：仏、須菩提に告げたまわく。諸の菩薩摩訶薩はかくのごとくその心を降伏すべし。すべて一切の衆生の類。すなわち卵生なるもの、胎生なるもの、湿生なるもの、化生なるもの、有色なるもの、無色なるもの、有想なるもの、無想なるもの、非有想非無想なるもの。われ皆な無余涅槃に入りて滅度せしめん。かくのごとく無量無数無辺の衆生を滅度せしめども、実に衆生を得て滅度せしむるものなし。なんとなれば、須菩提よ、もし菩薩に我相・人相・衆生相・寿者相あれば、すなわち菩薩にあらず。

釈：本品は主に菩薩たちが四相を破り、人我見を断除する問題を説く。菩薩が三界四生九有二十五類の衆生を教化滅度し、皆な無余涅槃に入らしむるも、しかも不如理の思惟観を生ずることなかれ。これら衆生は我が化度したもの、かくのごとく多くの衆生を度したという思いを起こしてはならない。菩薩このように思うならば真の菩薩にあらず。真の菩薩は般若実相の智慧に依って四相を破り、心中に我相・人相・衆生相・寿者相なきべきなり。

仏、須菩提に告げたまわく：諸の菩薩摩訶薩はかくのごとくその心を降伏すべし。摩訶は漢語にて大なる意味。仏経中の大菩薩は一般に明心証悟以上の菩薩を指し、賢人の徳を備う。厳密に言えば登地以上の菩薩を大菩薩・法身大士と称す。仏の一分あるいは多分の法身を証得し、一分あるいは多分の無生法忍の智慧を具え、一分あるいは多分の道種智を有し、聖人の徳性心を備う。これを分証即仏と称す。もし菩薩の熱心と善心のみあり、解悟あるいは仏法の理解あるも、無生智慧を出生せずんば、大菩薩と称すべからず。菩薩が初めて無生忍を開悟し、人無我を証得する時、五陰十八界が虚妄無我なることを忍可し、実に真実の出生なきを了知す。しかも如来蔵も生ぜず、無始劫来より存在することを覚り、かくして大乗無生の智慧を生起す。