第一節 殺戒第一
(七)原文:人為めに無煙の火坑を作す。人死する者は悔い返すべからず。人に非ずして死する者は、是れ中罪にして悔い返す可し。畜生の死する者は、下罪にして悔い返す可し。
釈:他者のために無煙火坑を作り人を殺害する場合、人間が火坑に堕ちて死ねば悔い返し得ぬ殺罪を犯す。非人が火坑に堕ちて死ねば優婆塞は中程度の悔い返し可能な殺罪を犯す。畜生が堕ちて死ねば優婆塞は軽度の悔い返し可能な殺罪を犯す。
何故同一の火坑に堕ちた衆生の種別が異なると、優婆塞の罪科が異なるのか。第一に衆生の身分・福徳・固有の価値が異なり、死後の損失が異なるため、殺害の罪科も当然異なる。人は非人より尊く価値あり、非人は畜生より尊く価値ある。人を殺せば最大の罪、畜生を殺せば最小の罪となる。価値とは世間への貢献度、衆生への利益、自らが得る世間・出世間の成就の大小を指す。第二に優婆塞の目的と意図が異なり、故意と過失では罪科が異なる。優婆塞が人を殺害目標とし殺意を抱く場合、人の死は重罪となる。非人や畜生を目標とせず殺意なき場合、それらの死は過失致死となり罪は軽い。
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