朝に静坐すれば、鼓の音、風の音、誦経の声、鳥の鳴き声、あらゆる音が耳に入るも、心は塵界を絶ち、微動だにせず。 心の声再び起こり、世界国家有情の弘法度衆、事々が浮かぶも、心は諸相を離れ、波紋も立たず。
世間の人事、蛙の鳴き蝉の騒ぎ、蟻の争い蜂の競い、人を笑わしむるのみ、死以外に大事なし。生死の事も大ならず、泡の生滅、全ては空幻なり。 出世間の事、衆苦の解脱、弘法利生、真剣になるに及ばず、皆夢中の事。名誉利養、毀誉称讃、誓願責任、過ぎ去る空相なり。
一切の音声は空谷の跫音の如く、皆取らず。一切の色相は蜃気楼の如く、皆執わず。一切の事理は亀の毛兎の角の如く、皆執着せず。世人の威嚇利誘、皆罠なり。世事の華やかなる乱舞、皆棘なり。言葉笑い黙す挙手投足、全ての作為、皆苦業なり。六根が境に対し、声色犬馬、一毫でも執すれば、砒霜を口にするが如し。
眼と色と見の三者空、耳と声と聞の三者空、鼻と香と嗅の三者空、舌と味と嘗の三者空、身と触と覚の三者空、意と法と思の三者空。能く空も空、所空も空、心中の空も空、空空も空。微塵も立てず、微塵も得ず。立つも立たず、得るも得ず。立たず破らず、得ず失わず、これこそ本分の消息なり。家に四壁なく寸草も無く、錐を立てる地も無し。畢竟微塵無く、微塵無きも無く、無きも無し。ここに至る者、豈に耳根円通のみならんや。眼根円通、鼻根円通、舌根円通、身根円通、意根も円通、六根ことごとく円通。何が通ずるか?参究せよ!
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