夢の中の美しい音楽を思い出し ただ自ら疲労する
原文:仏は王に言われた「大王よ、譬えば人が眠りの夢中に妙なる楽の音を聞き、心に快適な喜びを生ず。この人目覚めた後、夢中の美妙な音楽を憶念す。これ実有りや」王曰く「否なり」
仏言われた「大王よ、如何に思うか。この人の夢見しことを執りて実と為すは、是れ智者ならんか」王曰く「否なり世尊よ。何を以って故ぞ。夢中には畢竟、楽声無し。況んや復た快適な喜びを生ずること有らんや。当に知るべし、この人はただ自ら疲労するのみにて、全て実無し」
釈:仏が浄飯王に説かれた「大王よ、譬えば人が眠りの夢中に妙なる音楽を聞き、心に快適な喜びを生じた。この人が目覚めた後、なお絶えず夢の中の美しい音楽を回想している。夢の中で聞いたものは実在するか」浄飯王は「そうではありません、世尊」と答えた。仏は「大王よ、どう思われるか。この人が夢見たことを実在すると執着するのは、智慧ある者と言えようか」浄飯王は「この者に智慧はありません、世尊。なぜならば、夢の中にはそもそも音楽など存在せず、ましてや心に快適な喜びを生じるなどということがあるはずがないからです。従ってこの者はただ空しく心神を消耗しているだけで、実在する事柄など何もないのです」と述べた。
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