父子合集経講記（九八）

夢の中で鬼に悩まされることは実在するのでしょうか。

原文：大王よ。譬えば人が眠りの夢中に、畢舍遮（びしゃしゃ）に悩まされ、心に恐怖を生じ、痴迷して悶絶するが如し。大王よ、如何に思われるか。この人が目覚めた後、夢の中で鬼に悩まされたことを憶念するとき、それは実在のことと言えるか。王は答えられました「いいえ、世尊よ」。

釈：仏は説かれた「大王よ、譬えば人が眠りの夢中にビシャチャ鬼に侵害され、心に甚だしい恐怖を抱き、迷い昏倒したとします。大王よ、どうお考えですか。この者が目覚めた後もなお、夢の中で鬼に悩まされたことを追憶するなら、この事は実在するといえるでしょうか」。浄飯王は答えられた「実在しません、世尊よ」。

原文：仏は言われた「大王よ、この人が夢を執着して実在と見做すことは、智者と言えるか」。王は答えられた「いいえ世尊よ。何となれば、夢の中には畢竟、鬼の悩ましは存在せず、ましてや痴迷悶絶などあるべきではない。まさに知るべきである、この人は徒らに自らを疲労させ、実相は全く存在しないことを」。

釈：仏は説かれた「大王よ、この者が夢境を実在と見做すことは、智慧ある者の行いと言えるでしょうか」。浄飯王は答えられた「智慧ある者ではありません、世尊よ。なぜなら、夢中にはそもそも鬼の悩ましなど存在せず、ましてや恐怖による昏倒などありえないからです。我々は理解すべきです、この者がただ無駄に心を消耗させただけで、実在の事象ではなかったことを」。