『円覚経』抜粋

原文：善男子よ。何が我相であるか。それは諸々の衆生の心が証得する所のものである。善男子よ。譬えば人が百骸調和し、忽然として我が身を忘れた時、四肢は緩やかに弛み、養生の法を誤り、微かに針艾を加えられれば、直ちに我の存在を知るが如し。故に証取するによって、初めて我体が現れるのである。善男子よ。その心が如来を証得し、究竟して清浄なる涅槃を了知するに至るも、皆これ我相である。

釈：仏は説かれた。善男子よ、我相とは何か。その現れと特徴は如何なるものか。我相とは衆生の識心が証取し得る、了知し得る能相のことである。譬えば人が全身の骨格筋肉経絡が極めて快適で、少しも違和感がなければ、この人は色身の存在を忘れ、四肢が弛緩し、身体の在処さえ意識しなくなる。この時細い針で軽く刺せば、直ちに自身の存在を知る。故に我を証取し、我の身体という観念が生じる。善男子よ、その心が如来を証得し、究竟して清浄なる涅槃を了知するに至るも、これ皆我相である。

仏のこの説法は、我相が極めて微細であることを示す。粗相の我相は阿羅漢が証得し断じ得るが、極めて微細な我相は菩薩の境地に至って初めて証得・断除できる。ここでいう我相とは、衆生が自身と一切法に対する微細な知性を指す。知がある限り、その知がいかに微細であれ、皆我相である。我がなければ知もない。この知性を認取するのが我見、執着するのが我執（法執とも称す）である。この知性を認取することが無明であり、業行を生じ、変易生死を招き、究竟涅槃を得られない。

もし衆生が「私は証果を得た」と説き、この証果を得る心相を認取執着すれば、これが我相＝我見である。「悟りを開いた」と説き、この悟る心相を執取するのも我相である。衆生が「我は善、彼は悪」と分別すれば我相が生じ、これが我見となり、生死業を造作し、分段生死と変易生死に縛られ解脱できない。自他を比較し己を高め他を貶める行為は粗大な我相であり、三悪道を免れない。欠点を隠蔽し他を攻撃するのも重い我相である。

全ての身業・口業・意業は我相である。認取執着しなければ我見は生じない。短所を庇い争う行為は我相の現れである。表情（照れ・赤面・当惑・羞恥・喜悦・憤怒・敵意）の全てに我相が現れる。一切の悪行不善行は我相を伴い、衆生の善行も多く我相を含む。聖者の善行は自然任運にして我相なく、仏の三業には全く我相がない。