菩薩の心は空にして、五蘊に住まず修めず

大般若経原文：諸菩薩摩訶薩。深甚なる般若波羅蜜多を行ずる時。色に於いて住せず習わざれば、これ即ち色を習うに住するなり。受想行識に於いて住せず習わざれば、これ即ち受想行識を習うに住するなり。広く説けば乃至、十八仏不共法に於いて住せず習わざれば、これ即ち十八仏不共法を習うに住するなり。何を以ての故に。憍尸迦よ。諸菩薩摩訶薩は深甚なる般若波羅蜜多を行ずる時、色に於いて住すべき習うべきを得ず。受想行識に於いて住すべき習うべきを得ず。広く説けば乃至、十八仏不共法に於いて住すべき習うべきを得ざるが故なり。

釈：諸菩薩摩訶薩が深甚なる般若波羅蜜多を修行する時、色蘊に対し心に住着せず薫習しなければ、これ即ち色蘊を薫習するに住する正しき薫習なり。住着するは正しからざる薫習なり。受想行識蘊に対し住着せず薫習せざれば、これ即ち受想行識蘊を薫習する正しき住処なり。広く説けば、十八仏不共法に於いて住着せず薫習せざるは、即ちこれらを薫習する正しき住処なり。

何故か。憍尸迦よ、菩薩摩訶薩は般若波羅蜜多を行ずる時、色蘊の不可得なる理に住し、常にこの理を薫習すべし。受想行識蘊の不可得なる理に住し、常にこの理を薫習すべし。広く説けば、十八仏不共法の不可得なる理に住し、常にこの理を薫習すべきなり。

要諦は「住」と「習」の二字に在り。この内実を弁えれば経文を解するを得。「住」とは心の色受想行識に陥入し、着愛執取するを言う。「習」とは心の色受想行識に触れ、薫習し行用するを謂う。

これ凡夫の心行にして、五蘊への執着なり。五蘊の真実相を見ずして惑乱す。菩薩は般若波羅蜜多により五蘊の空を照見し、住着執取せず、心空くして五蘊を行じ、阿羅漢の如く滅却せざるなり。

五蘊の作用は一切の身口意行に顕現す。凡聖の差別はここに判ず。心空なる者の三業と、未だ空ならざる者の三業とは、証法者と未証者との間に多大なる相違あり。然れども自心未だ空ならざる者は、この差別を弁じ難し。認知の局限、経験知識の桎梏を超え難き故なり。