無明と煩悩の業がもたらす果報

罪業の比較的重きを造りし者は、仏前に於いて懺悔せば瑞相を見るが如し、例へば蓮華現れ、仏来たりて頂を摩し慰め給ふ。一般に重からざる罪業は、大衆の面前に於いて真摯に懺悔すれば消除され得。覚ゆべし、貪りの心は餓鬼道を生じ、瞋恚の心は地獄道を生じ、愚痴は畜生道を生ず。臨命終時悪業の相現前すれば、必ず三悪道に趣き、避くるを得ず。平素より自らの心性を検するに努め、仏法の理を以て降伏せしむべし。戒を保ち定を修すれば煩悩を降伏すること較速やかなり。貪心甚だ重き者は餓鬼道に於ける受苦の時劫甚だ長く、若し三宝に対し重き貪心を生ぜば、その罪業は実に甚大なり。瞋恨心較重き者は地獄道に於ける報いの時劫甚だ長く、若し三宝に対し瞋恨心を生ぜば、その罪業更に測り難し。愚痴重き者は大いなる悪業を造作し、もはや畜生道の問題に非ず、先ず地獄に堕ちて報いを受け、その後餓鬼道、更に後畜生道に至らん。

一切の煩悩は全て愚痴より引起され、愚痴は煩悩の根源なり。愚痴無くんば貪心と瞋恚心を生ぜず、煩悩業を造作せず。将来煩悩を断除する時、貪心と瞋恚心は先ず断じ、愚痴は最後に断ず。この世間は到る所暗黒の如き愚痴の衆生に満ち満ち、量も多く且つ甚だ重し。

昔ある居士阿羅漢を誹謗せし時、阿羅漢その居士に告げ給ひき「我は既に阿羅漢果を証得せり。汝必ず大衆の前に於いて我に懺悔すべし、然らずんば必ず地獄に堕つべし」と。然る後阿羅漢鐘を撞き衆を集め堂に上り、居士は大衆の面前に於いて阿羅漢に詫び懺悔せり。然るにその居士命終して猶地獄に堕ちたり。何故ぞや。阿羅漢を誹謗する罪業は甚大甚重なるが故に、懺悔したる後も完全に消除されず。若し懺悔せざれば罪業更に重く、地獄に於ける受苦の時劫更に長久ならん。地獄に於いて一分早く出離することあらば、万幸にして歓喜に値ふ。罪の軽重により堕つる地獄も異なり、受くる苦痛もまた異なる。初果人・二果人・三果人を誹謗する罪業も亦甚だ重し。この世間人は相手の身分や証量を顧みず、煩悩起これば悉く誹謗し、後果を慮らず、発散することが最要と為す。何と愚痴なることか。

仏法を学びて若し煩悩を降伏せんと欲せざれば、仮令八地菩薩の理論を学ぶとも、煩悩業を造作したる後は三悪道に堕ち、八地菩薩の法も亦自らを救う能はず。平素只管に自らの煩悩性情に随順し、後果を考慮せず、己が情に任せ、己が意を逞しゅうし、他人の如何なるをも顧みず、自心の安穏のみを図る。然るに果報到来の時は百万倍の不安穏を蒙らん。安穏と不安穏の比例ありや。全く比例せず。其の時再び当初の苦労を思へば、全く値せず、唯悪報を受くるのみにて、何ものも得ること無からん。