魔王の手段
人が未到地定を具足し、初禅を起こそうとする時、魔王は様々な手段で障害をなす。各人の心の最も弱き所を衝き、その薄弱部分を破れば、貪欲の心が生起し、禅定は消失して魔掌より脱すること能わず。若し定力堅固にして魔王の破壊を受けずんば、命終して色界天に昇り、魔王の境界を超え、その管轄と制御を受けざるに至る。
欲界には何があるか。欲界には様々な貪欲あり、財・色・名誉・飲食・睡眠を有し、男女の欲を主とす。若しこの欲を超越し、断除する時、魔宮は震動す。修行人の道心堅固ならず、福徳足らざれば、容易に干渉を受け、禅定は消失す。魔の最も望む所これなり。故に彼は衆生にこの欲界世間を貪愛せしめ、その眷属の減ずることなからしめんとす。魔王は皆、自らの眷属益々多からんことを願い、故に方策を講じて眷属を制御し、衆生に貪欲の心を起こさせ、自らの掌握を脱せしめざらんとす。
故に仏は「愛楽の心を生ぜば即ち魔の境界なり」と説きたまう。我ら世間の人は皆魔王の掌握の下にあり、また欲界の忉利天に住する帝釈天の管轄をも受く。欲界の人間が善を修めれば、帝釈天は最も歓喜す。善を修める人命終して欲界天に昇れば、帝釈天の眷属増加する故なり。故に朔日・十五日には天人護法を人間界に遣わし巡視せしめ、善法を行ずる者多きか悪法を行ずる者多きかを観察せしむ。若し善法を行ずる者多ければ帝釈天歓喜し、悪法を行ずる者多ければ帝釈天歓喜せず。人間界この事を知り、毎月の朔日・十五日に仏を供養し、斎戒を守り、善行を積み、多く善業をなして死後天界に昇り楽しみを受く。時に世間人の為す事にも一定の道理あることなり。
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